停電の夜に
あおば

                110709



牛10頭分のすじ肉求む
血を抜かれ吊り下げられた解体中の牛の姿に
無罪判決を聞く検察官の寂しさを重ねてはなりません
頼りのお父様も定年を迎え
我が家も財政規模を縮小さぜるを得ないので
霜降り肉は当分食卓に並ぶことはありませんが
今日は、お祝いですからと
老舗のお座敷に膝を揃え
岩谷のガスカセットをセットして
青い炎を揃え
すき焼きの準備が整った
この辺りで隣室の幼児が泣きだしたりして
まだ若い母親が取り乱したりして騒がしい様子だが
声だけなので、聞こえないふりをして
お父様はいつもの陽気を装う
作者は、老舗では、今でも炭火を用いているのではないかとの疑念が沸々とわき出すのを覚え
これ以上書き続ける気持ちを失い
廊下を音もなく通り過ぎる古老に声を掛け
計画停電の夜の思い出を語るように促すが
古老は、歳を取りすぎていてつい最近の計画停電の夜のことは忘れてしまい
1946年頃に始まる不規則な停電の夜のことを語り出す
なんでも、1945年8月に戦時体制が解かれ、軍需工場は操業を停止
当然のことながら、動力源のモーターも止まり、水力電力に余剰が生じた
都市では家庭用薪炭、石炭などの燃料は常に不足気味で、電力料金は定額であっ
たのをこれ幸いと、簡便な電気コンロ等の需要が増大、冬を迎え、電気ストーブなども製造販売され、あっという間に未曾有の電力不足となったという。定格100ボルトの電圧が、夕餉時には50ボルト程度まで下がり、電灯は暗く、蛍光灯は光を失い(蛍光灯は家庭には無かったので、想像するだけですがと古老は左手で頭を掻く)ラジオも音を止め、すいとんを啜る貧しい食卓の主なる話題も自然と暗く乏しくなって、食料配給の遅配への不満と不安、配給物資の闇市への横流し疑惑についてなど、清貧を楽しむ余裕など少しもありませんでした。そのうえに明日は早起きして、殺人的な満員列車に乗り込んで買い出しに行かなくてはなりません。一張羅の背広を売って継ぎの当たった国民服を着続けるのは嫌だと思ってもお米を食べないと力が出ないから仕方のないことと思うようになりました・・。湿っぽい話が延々と続き、静かに頷きながらも、霜降り肉のすき焼きの柔らかい舌触りと脂の甘み、艶やかなふっくらとしたごはんを拝むように素直に頂いたのは、作者だけだったかも知れません。なにしろ、近頃の停電の夜は蒸し暑くて・・。






「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作の修正、タイトルは、noteさん



自由詩 停電の夜に Copyright あおば 2011-07-09 01:09:33
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