第二ボタンのひと
恋月 ぴの

べつだん躊躇ったりすることもなく
無造作に引きちぎった胸元のボタンを手渡してくれた

「ありがとう」

「礼なんていらないよ
こうするものらしいしさ」

恥じらいをみせれくれれば可愛いのに

でも、それは君らしくもあり

ひとまわりは確実に離れてる女のあしらい方と考えているのか

母親でもないし
お姉さんでもないしね

そのくせ、わたしの前を歩かないところが甘えんぼさんの所以だった

合格した東京の大学へ進学するとのことで
わたしにそれを止める確かな理由なんてあるわけもなく

懐かしい文通だったのかな

いずれ疎遠になっていくことは覚悟してたけど
夏休みに帰ってくると約束してたのに帰ってはこなかった

東京の暮らしは刺激に満ちているだろうしね

わたしなりには覚悟きめてはいたけど

あれから何年経ったのだろう

名前は一緒かなとは思ったものの
同級生が教えてくれた
まさに余計なお世話ってやつなんだよね

いまでも君のことだとは信じられない
東京へ出て行って
半年もしないうちにわたしのことを忘れてしまった男の子が

滞在していたホテルのドアノブで
そんなんでも自らの命を絶てるなんてね

テニス部の部長さんじゃなかったっけ

引き出しに見つけた第二ボタン
口に含むと後追いの青錆び臭さが舌を刺す










自由詩 第二ボタンのひと Copyright 恋月 ぴの 2011-07-04 19:12:56
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