逃亡
マッドビースト


 何日歩いたか分からなかったが
 見渡す限りはサバンナで
 振り返るとビル郡が
 しかし小山ほどの連なりで見えたが
 向かっているほうは真っ白に地平だった

 喋るのが億劫だったからって
 歩きすぎだ
 動くものの姿はあったがどれも四足で
 言葉はもうながいこと
 発してもいなければ
 聴こえてもいない

 バオバブに宿って雨のあとの
 空腹に
 無心で貪りついていたそれは
 気が付いてみると大事な白馬だった

 ああもう独りのままなのだなぁ
 と白馬の開いた瞳孔を眺めて思っているのに
 血肉を齧るのをやめられなかった

 何日眠ったかは分からなかったが
 見渡す限りはサバンナで
 振り返れば街の
 匂いくらいは嗅げたのかもしれないが
 やはり足は真っ白い地平に向いている

 もう長いこと手もついて進んでいて
 立っていたのは古い写真のような景色だけで
 これはこれで目の前の草の色の濃紺や
 花の蜜や虫の死骸で頭が一杯になるので
 悪いことではない

 それでもここでサバンナもきれる場所というのがあって
 その先は砂漠だった
 振り返ると少しまだ思い出せるものはあって
 どうしようかと思ったが
 誰かがの黒い革靴とブルージーンズが
 境界のあたりに脱ぎ捨ててあって
 これも悪いことではないのだなぁと分かった

 確か今日は金曜日なので
 日曜のよるには歩いて街に帰ろう
 もし立てなくなっていたら愛らしくして誰かに飼ってもらおう
 と思って僕もジーンズを脱いだ。  
  


自由詩 逃亡 Copyright マッドビースト 2003-10-16 23:37:36
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