rabbitfighter

僕が語ることのできる中で、もっとも美しい物語を君にあげよう

月が灯ると、夜が始まるよ
それから、
朝の始まりは、夢の終わり

朝と夜の間、
明るくて、暖かくて、
年老いた銀杏の大木は、光を食む
銀河で燃えている星の数を僕は知らないけど
君の体では、60億の細胞が燃えている

これは、最も美しい物語
深さについて、君が思うとき
君の中の迷宮が脈動する
深い色
深い音
深い闇
君の中に、迷宮がある
言葉よりも前に生まれた物語
君が生まれるよりも前に生まれた物語

僕が語ることのできる中で、最も美しい物語

君はまだ眠りの中で、街も静けさに満ちている
それは美しい一日の始まりの予感
とめどなく咲き続ける蓮の花
中心に向かって広がる水の波紋
吐き出された煙草の煙が街灯を浴びて青白く染まる
眠りの中で、君が巡り合う悲しい人たち
君は月明かりに虹を見る
それは、最も美しい物語
君が眠っている間に紡がれる絹の紋様
ガラス壜に詰め込まれた言葉の欠片
片目だけ眠る子供たちの見る夢
夜と朝の間
光が闇に触れ、梳り、抱きしめる
君の中で眠っている物語
目が覚めると、朝の光に溶けてしまうから
君が眠っている間、僕が語ろう
最も美しい物語を
夜と朝の間の
すべての物語の故郷の
君の中の迷宮
闇が光をを抱きしめる
それは一幅の曼荼羅
喜びと悲しみ
憎しみと愛
相反する全ての感情をその中に閉じ込めた
朝が来るたびに夜が明けるたびに新しく生まれ変わる物語


闇が光を抱きしめる
光が闇を抱きしめる

僕が語ることのできる中でもっとも美しい物語を君にあげよう


自由詩 Copyright rabbitfighter 2011-06-08 12:43:35
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