とんかつソース
コーリャ


空白をたどる
そうすればぼくたちはみんな
あの場所と呼ばれつづけている場所に
帰れるはずだ

子供の頃
壁を手のひらで撫ぜながら歩いたみたいに
植物のトゲに傷つけられたみたいに
擦り傷をつくりながら
風景をたどっていく

手品によくある
体内から連なる国旗をしゅるしゅる取りだしてみせる芸のように
あなたはその口から言葉を紡いだ
優しいから傷つける言葉は
ノルウェーで
未熟なアイラブユーは
みたことのない紋章
たぶんベラルーシ
あたりだと思う

満月にぼくは怪人になる
鏡粉砕怪人である
家々の姿見を順に回って割ってしまう
自分の姿が反射する間もない早業だ
だからぼくはぼくを見ることができない
たぶんあなたもあなたを見ることができない
ぼくたちは空間であるべきだった
音楽的であるべきだった
あとちょっと関係ないけど
夜空には口笛を吹いてはいけない
マントを翻し
ひときわ深い影を落としながら
ぼくはおびき寄せられていくから

バスルームには粉々の濡れそぼったガラス
まるで雨の風景を破片に砕いたみたいに
それは痛感をともなう
複雑な虹のかけら

金魚鉢の水を取り替えるつもりだった
あなたの手から
すり抜けていった
から
あなたは叫んだ
靴下が濡れた
金魚はゆっくり乾いて
死んだ

あなたは俯いた
長い黒髪があなたの顔を隠すシェードになった
笑いをこらえるように
あるいは繊細な楽器のように
肩が震えていた

ぼくは
死骸を手のひらに載せて
フライにして食べよう
と提案する

あなたはやっと顔をあげて
とんかつソースしかないけれど
と笑った


自由詩 とんかつソース Copyright コーリャ 2011-06-06 20:38:42
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