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プテラノドン

友人に家まで送り届けてもらった。車から降りると、
ヘッドライトが照らしていたのは
大きな一匹のカニで(近くに水場もないのに)
口から泡を吹いていた。ちょうど二時間前には
男も口から泡を吹くくらいに酒を飲んでいたし、
運転席から降りてきた友人はカニを見た驚きのあまり
口をすぼませたが、荒い吐息しか出なかった。
でも、その夜、誰が吹いたのかと言えば、
飲み屋に居た女に他ならない。彼女は延々と
出会ったこともない有名人との一夜の情事を
事細かに話していたため、男と友人は、
互いに目配せしたり肩をすくめてみせたり
おちおち胡坐もかいていられないなあといった具合で
便所に行くふりをして、長髪のボーイに金を渡し
店を出て駐車場まで歩いている間も笑いっぱなしで
それはコンビニに立ち寄って缶ビールを買うまで続いた。
そんな二人の後ろ姿を、これまた暗示めいて長髪の店員が
ガラス越しにきっちり見送ってから、
雑誌棚の整頓を始めた頃にカニが歩きだしたのかもしれないし、
その時にはもう、泡を吹いていたかもしれない。
とにかくそれらはパチンと弾けては空気を汚染する類のもので、
次の日の朝、男たちは頭を抱えていた。部屋の床には
大小様々な水晶が転がっていて、そこに映りこんだ映像は、
人生を摘みとる行為を許しはしなかった。似たようなものが
工場のゴミ捨て場付近にたくさん転がっている。
かつて男たちはそこに居たのだ。


自由詩 [:bubble Copyright プテラノドン 2011-06-06 02:07:31
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