隠すひと
恋月 ぴの
姿見に映すわたしの姿
ぷくっと気になる「部位」がある
*
肩甲骨を意識して
立ち姿に気をつけてみた
たとえばモデルさんみたいに片足を気持ち後ろにずらす
それなのに元カレに似たひととすれ違ったりして
深いため息でもついたとしたら
元の木阿弥、胸を張って生きるって難しい
*
今年の新作水着
へえっ、こんなにもおしゃれなんだあ
すかさず手にとってはみても
やはりあの「部位」が気になって陳列棚へ戻してしまう
目ざとい店員さんがお似合いですよとまくし立てるので
慌てふためき逃げ出すように店を出た
ショウウインドウを掠めるわたしの姿
現実を直視しないのが幸せのこつだったりして
*
単なる「部位」に違いないのだけど
これこそ。わたしの総て
どうぞと席を譲られても困ってしまうし
無理なダイエットはリバウンドが怖い
おんなものの傘があくまでも華奢なように
ひとりで生きられない女でありたいものだけど
誰も気付いてはくれないみたいで
*
見てくれだけが大切なんだよね
いざとなればパッド入りの勝負ブラがあるし
半ばだまされて買った補正下着だってある
物事の本質なんて誰ひとり求めてはいないのだから
姿見に映すわたしの姿
ここぞとばかり大胆不敵な見得を切る