生物屋の彼女
士狼(銀)


生物屋の彼女の口癖は『早く地球滅びないかなー』だったりする。冗談ではなく本気だから困るのだ。え、なにそれ、君はぼくすらも滅びればいいと思っていたりするの?だなんて聞けない、なぜなら予想される答えはyes以外の何物でもないからだ。愛しい彼女はキスをするのと同じ温度で言い放つに違いない。


生物屋の彼女の休日は無いに等しく、ぼくよりもネズミと過ごす時間の方が遥かに長い。それでも、肩にのせたネズミに名前をつけて『アルジャーノンだよー』って写メールを送ってくる彼女は楽しそうだからそれでいいんだ。ああ神様、もしいらっしゃるなら来世でも彼女を研究者に、ぼくを彼女に愛されるネズミにしてください。


生物屋の彼女は甘えるのが下手だ、とぼくは思いたい。彼女が言うには寂しさの閾値が違うらしいのだが、感情にすら理由をつける彼女は理系なんだと実感する。彼女のセリフを借りるなら『寂しさの閾値は君より高いかもしれないけれど、哀しみの閾値はきっと随分低いわ』。(ぼくはいつだって君に触れていたいのに。)


生物屋の彼女は、脆い。ソファーに並んで座りながら体育座りの彼女を横目で見る。彼女はよく『頭と踵がくっつくように背骨が折れる』想像をするらしい。想像だけでも痛そうだな、と思っていたらやっぱり、彼女は珈琲を啜りながら顔をしかめていた。それぐらいの罰がなければ採算が取れないかしらね、気をつけていなければ聞き取れないくらいの声で言うその細い体にどれだけの重荷を背負っているのだろう。ぼくは気がつかなかったふりをしてシュガースティックを渡す。

落ち込んだときには甘いもの。苦い珈琲に、少しだけ優しさを混ぜて。君の戦いはまだまだ続くだろうから、ぼくといるときくらい、ただの不器用な女の子でいてくれていいんだよ。






『……今度からカロリーオフのお砂糖にして』
「!!」


自由詩 生物屋の彼女 Copyright 士狼(銀) 2011-05-26 22:58:28
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