数えるひと
恋月 ぴの

立ち止まるのもありとは思うものの
夏らしさを感じる風の勢いに身を任せてみる

買い物帰りとかに立ち寄る近くの公園
このあたりは放射線とは多少なりとも無縁でいられるのか
小さな子供たちのにぎやかな歓声

それでも木陰のベンチは寝転がれないようになっていて
ある種の仕組みのなかで生かされていることを知る

それだからどうこうって訳ではなくて
眩い青空に面と向かい合い
誰にも告白できないようなことを呟きたいだけ

風に吹かれる
夏の風に吹かれて

ささやかな自由は幾多の自己犠牲を要するとしても
別段抗うことなく
それでいて訳知り顔になることもなく

風に吹かれる
夏の風に吹かれて

遥か遠く運ばれてきた潮の香りに耳をすます

わが子を抱いたお母さんたち
砂場の近くの木陰で雑談に興じている

敢えてあのことに触れることはないのだろう
胸元で甘える幼子の息遣いに
目に見えぬ不安に苛まれることよりも
この子を守り抜くのだという決意が勝っているようにも見え

風に吹かれる
夏の風に吹かれて

そして湧き立つ積乱雲の忙しさに暫し耳をすます





自由詩 数えるひと Copyright 恋月 ぴの 2011-05-23 21:55:29縦
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