数えるひと
恋月 ぴの
立ち止まるのもありとは思うものの
夏らしさを感じる風の勢いに身を任せてみる
買い物帰りとかに立ち寄る近くの公園
このあたりは放射線とは多少なりとも無縁でいられるのか
小さな子供たちのにぎやかな歓声
それでも木陰のベンチは寝転がれないようになっていて
ある種の仕組みのなかで生かされていることを知る
それだからどうこうって訳ではなくて
眩い青空に面と向かい合い
誰にも告白できないようなことを呟きたいだけ
風に吹かれる
夏の風に吹かれて
ささやかな自由は幾多の自己犠牲を要するとしても
別段抗うことなく
それでいて訳知り顔になることもなく
風に吹かれる
夏の風に吹かれて
遥か遠く運ばれてきた潮の香りに耳をすます
わが子を抱いたお母さんたち
砂場の近くの木陰で雑談に興じている
敢えてあのことに触れることはないのだろう
胸元で甘える幼子の息遣いに
目に見えぬ不安に苛まれることよりも
この子を守り抜くのだという決意が勝っているようにも見え
風に吹かれる
夏の風に吹かれて
そして湧き立つ積乱雲の忙しさに暫し耳をすます