卵みたいな卯月
小池房枝

始まりのながしそうめんひとすじの流れを開いた歌を覚えてる

水面へとそして空へと浮かび出たばかりのように濡れた満月

ぽっかりと伐りひらかれた森の中ヤブラン静かに工事を待ってる
 
なつかしい人なつかしい物語キツネの窓の向こうにも春

花びらは散り伏してからも風のたび立ち上がっては走リ廻るよ

ストロベリーチーズケーキとバーガンディチェリーのダブルの溶ける速さよ
  
ユリノキの梢にぽっぽと緑色ともし火のように点っています

昼間見た残され池の雑魚らにも雨ふるらしも良かったねみんな


透明な小鳥は空に木蓮の白き遺骸はやがて大地に

身の内に秘するものなど何もないただ咲くだけさとサクラ全開

バールひとつ月夜の晩に拾ったらどうしてそのまま捨てられようか

梅の実がさやさや風に揺れていた若葉とおんなじ緑色して

実らない花ばかりなのに何故スミレ鮮やかに咲いて何と交わる

きれいかと問われれば迷う八重桜たわわだなと言う君と見上げる
 
泣きたくて恋したわけではないけれど笑いたかったわけでもないよ

雨の日にスミレがたくさん咲いていたどっちも欲しくてずっと待ってた


チンダッレ日本の花とは違うだろうけれどもツツジを見るたびに思う

桜走り今日はお休み花びらが路面の澪にダムを作った

ヒヤシンス部屋には匂いがきつすぎる分かっていたけど入れたかったの
 
図書館が我が「祈りの海」読むことのユーフォリアそっと揺りかごを揺らす

るすにする。るすとするーはちょとちがう。するとするーはぜんぜん違う
 
あしたたた明日は足が多そうな気がするスタスタ歩いて行きそう
 
リターンキー「こくう」が虚空になりました穀雨は虚空に生まれるものか

さくら咲き終わって小さな篝り火のような花梗が落ち散らばってる


ケムケムにつぼみの先をかじられて尚まるく咲くちびたタンポポ
 
月は誰かがこっそり其処においたものひとが見上げて目指すようにと
 
黒点は無く太陽風、磁気圏は共に静穏。ヴォネガット逝く

作家たちの訃報きくたびまだ同じ時代に生きていたのかと思う

ちびかけた赤鉛筆を拾ったよ駅のホームで何してたんだろ

山道に怪しい案山子が立っているすっごく怪しい案山子の山道

歩く歩く吹く風の中に一歩ずつ自分の身体を差し入れてゆく
 
神は死んだ、とのことそうか、生きてたんだね。どんな一生だったんだろうね


醸された昼の桜や菜の花と晩のカレーの匂いがする風

斜面ふと見あげればスミレ好き好きにあちこち向いて咲いていました

植えたはずのない百合すいと立っている今年来るのは誰の百年

高層のあわい砂漠をはろばろと月がゆきます砂に染まって
 
裏側にからざがあって天蓋にぶらさがってる月だといやかも
 
月はかつて何したものかとシジフォスがプロメテウスと不思議がってる
 
ほとんどの星が静かには尽きぬものか新星発見ニュース相次ぐ

あんたまだそこにいるのね低気圧ゆっくりというかやたら長寿ね

 
骨ならば二百余ひとは柔らかな部分はどこまで数え得ただろ

成り成りて成り合はざるも余れるも一処ずつどころじゃなくって

細やかに砕かれた緑まぶされた銀杏にひとさし金色の夕日
 
月は今宵なにかを覗きに来たらしい土星だよそれは輪っかがあるでしょ

ひとひとりの重さを思う新雪のような花びら踏んでゆくとき

問われたら素直に静かに答えよう誰かいますか誰もいません

四月でも雪になるかとふと思うつんと冷たい風が吹いてる

沈み果てる前に春先長くなる日脚に呑まれ消えゆくシリウス


ものかげの花に気づいてやぁと言うと近くの猫がニャァと答えた
 
タイミングはかって花の吹き溜まり蹴り上げてみたが風に乗らない
 
まじまじと蕊を見てるとウメもモモもサクラもやっぱり薔薇科と思う
 
風ここでそんなふうにも動いてたの渦巻く花の軌跡目で追う

さくらさくら行ったり来たりくるくると向きを変えたり舞い上がったり
 
鯉の背が水を分けてくそのたびに花びらがすっとよけたり触れたり

ぼさぼさとあまり手入れのされてない梅林の底シロバナタンポポ
 
花信風双六一気に立夏まで咲きあがらんと荒れる雄風


君はもう咲き終わったろチューリップ。
ここにお座り、五月の風だよ


短歌 卵みたいな卯月 Copyright 小池房枝 2011-05-17 20:03:45縦
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