霜降る月の霜。踏み拉かれる前の、あなたへ
いとう




約束されたことは、なかった
ただ一度も、なかった
噛み合わない歯車が磨耗を呼び
嬉々として
それを食い潰した
約束されたことは、なかった

約束されたことは、なかった
なだらかな丘陵の、麓に生えるたおやかな草
波のようにうねる、安寧という名のまぼろし
それらはすべて、なかった
それらはすべて、なかったのだ

約束されたことは、なかった
あなたと交わしたすべての言葉は、なかった
あなたの纏う
あの、さやけきささやきにも似た
あの、微細に揺れる産毛にも似た
あの、艶めく1ミリの仕草にも似た
わずかな、本当にわずかな気配すら、なかったのだ

あなた、と呼べるものは、なかった
約束されたことは、なかった
呼ぶものも、呼ばれるものも、何も、何も、約束されたことは、
なかった






未詩・独白 霜降る月の霜。踏み拉かれる前の、あなたへ Copyright いとう 2004-11-10 00:32:05縦
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