におい
あぐり





増殖していくものはいつでも潮のにおいがする
侵されてふくらんだ節に
くちびるを近付けて躊躇う暁


赤色の中指を
所在なくわたしの腹のあたりで止めた
おなじ濃さでどこまでも広がるなら疑うことなんてないんでしょう
ほしいのは
どこかとおくで死ぬための理由で
免罪符とどいてないかって、郵便受けみやる春


ふえていく怠惰は
むせかえる春の雨に似て人間くさい
くちびるが湿っているとどうしてか俯いてしまう
プラグを挿し込みたいのに
ふたつの穴に拒まれた潮のにおいを眺めている
動けないのに呼吸できる
思い出せないものばかり数える未明
あんなにもきれいだったあなたの横顔
思い出せないあなたのにおい






自由詩 におい Copyright あぐり 2011-05-13 01:23:36
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