囀り
渡 ひろこ

声高に叫べないから
文字の裏にスルリと隠す
ほとばしる感情をメタファーにゆだねて
苦く噛みしめる思いをほどいて昇華していく


そうやって幾つ言葉を散らしてきたのだろうか


押し黙っていると苦しくて
出口のないラビリンスの中を
喉元を押さえて
廻り続けてしまう


いつの間にか遠く置き去りにしてしまった年月は
もう懺悔の手を差し出すことを赦さないから
自らを救済するために綴った一枚一枚が
ぎこちなく歩いてきた後に
はらり、はらりと落ちていく
躓きながら、そこかしこに
未完の私はそのままで


重ねるひとひら
息を呑み込み
震える多面体の私を平面に映す
イビツな形の収まりがつかなくても
その輪郭をなぞってもらえたらと


もしその断片をあなたが拾ったのなら
指先に伝わる小刻みな揺らぎに
しばらく耳を澄まして
一行の裏で小さくあえぐ吐息が
美しく響くか否かと


脈打つ鼓動の在りかを見つけたら
行間の谷底に潜む
何も纏わない裸のわたしを
そっと拾い上げて 手のひらに乗せて


わずかでも濁った声で囀り
黒く曲がった旋律を見透かしたなら
そのまま黙ってギュッと握り潰して


もしも、もしも
受け入れてくれるなら
私はあなたの手の中で
詩のベクトルに向かって
止まない蒼の歌を囀り続ける


今夜作られる物語のためにも
これがプロローグだということも


これからさきも、ずっと






自由詩 囀り Copyright 渡 ひろこ 2011-05-12 21:03:58縦
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