祈りの鐘
コーリャ

/AM2:00

天国って宇宙のどっかにあんのかな
と僕がたずねると
女は黙って指をさした

窓辺においたベッドから
起き直って首を曲げる
ちょうおどろいた
世界の破滅みたいに大きな月が浮かんでいた

あれ?ときくと
首を横に振る

女の視線をたどっていくと
夜空を列車が駆けていくのがみえた
その月を飛び越して
過去にでも行くようだった

悪魔の吹く銀の笛のような汽笛が噴出していた

そのあと僕たちは
野原に飛び出したのだった


/PM11:00

後ろから怪物がきた

違った

家族だった
自転車に乗っていた

自分たちのただしさを主張する
ゆいいつの拠り所のように
背筋をキシンと伸ばして

黙って漕いでいた

夜道にいつまでも
末っ子の補助輪が
かるかる
鳴っていた

かるかる


/PM6:00

夕方時には戦争のように込み合う駅が
今日に限って無人だった
レールが
懐きやすい夕べに光っていた
その陸だけは
海と地続きだった


/PM2:00

海に来ていたのだ
僕たちのしたがえるものすべてが生まれた場所だから
まあというか
僕たちそのものが生まれたはずの場所だから
海にきたのに
僕たちはこんなにも違う

桟橋で一人
イロスを食べてたら
感傷を海鳥に笑われる

ついでにイロスもちょっと奪われる


/AM11:00

「幸せってなんなんすかね?俺にはちょっと手の余る言葉ですよ」
友達が顔をうつむかせた
コーヒーカップにそのままめりこんでいくのかとおもった

彼はこのまえ天使に会った
比喩とか幻視とかでなく
まじで天使だったらしくて
これもらったんすよと
彼の差し出した手のひらには
傷だらけのビー玉がひとつ転がっていた
スカイブルーだった

「なにこれ?」

「心臓」
と彼は美しく笑った


/AM9:00

だれか結婚するのか
聖堂から鐘の音がきこえる

すごく晴れてた
でも

神様の手違いみたいに
葡萄畑だけに雨が降っていて

天気雨を
日本では
狐のウェディングというのさ
と女におしえる

女は
笑いもせず
真面目に僕のために祈ったので

俺は正気だというと

あなたは今泣いているといわれた

頬をぬぐうと
あたたかな液体が指にこびりついた

だれかの為に鐘が
高らかに鳴っていた



自由詩 祈りの鐘 Copyright コーリャ 2011-05-12 01:58:31
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