初夏、あふれる
橘あまね

あぜ道にはよもぎの群れ
なつかしい香りがきて
足をとめ
瑠璃色の頂をあおげば
中空にひびく 
ひばりたちのクーラント


くり返されて
増幅されていく営み
遠ざかったもの
遠ざけたもの
近しいもの
近しくなりたかったもの
捨てたもの
捨てられたもの

あまい夢とにがい夢とが
訪れて
まじわるあたりに
幼い官能の記憶を
痛みにも似せて
そっと保存している

ぼくは世界を愛してたよ
世界がぼくを愛してたからだよ
世界はぼくを愛してたよ
ぼくが世界を愛してたからだよ

世界のやわらかさとぼくのかたさ
世界のかたさとぼくのやわらかさ
微熱をおびた風の中で
ついばみ合ったなら
ふくらむ
あふれる
やがてはじけて
まじりあう

満ち足りてまどろむ
静寂
光を受け止める
数かぎりない息吹たち
期待を押し固めて
やがて新しい宇宙を織る

手をのばして
指先を触れさせた
瑠璃色の小片
束の間と永遠の
どちらでもよい気がした



自由詩 初夏、あふれる Copyright 橘あまね 2011-05-10 11:40:44
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