かおるひと
恋月 ぴの

最近入店した笑顔の素敵な男のひと
洗い方は丁寧なんだけど
細長い指先からほのかにただようタバコのにおい

最初は気のせいかと思ったんだけど
どうやらそうでもないようで
せっかくのシャンプーリンスが台無しになってしまった

休憩時間にでも吸っていたのかな

わたしも吸ってれば気にならないのだろうけど




はじめて身体を許したひと

わたしに背を向け指先のにおい嗅いだような

生理近かったんだけどね
嫌われたらどうしようかと断りきれなくて
甘い口づけを交わし
身体を重ねあって
溢れ出る感情を確かめ合ったのは事実なんだけど

男のひとって誰でもにおい嗅ぐのかな
なんかトラウマになっちゃうよ




不思議と汚くないんだよね

久しぶりに会った古くからの友だち
赤ちゃんをあやしながら笑顔で答えてくれた

うっかりすると紙おむつの脇からあふれ出てたりしてさ
パパと大騒ぎしちゃうんだけどね

まなざしは見飽きることの無い愛娘の表情に釘付けで

結婚なんかしないし、子供だって生まないんだ

あの日あの夜に女ふたりで誓い合ったはずなのに
すっかり母親らしくなっていて

愛おしげな指先からは甘いミルクの香りがした















自由詩 かおるひと Copyright 恋月 ぴの 2011-05-09 20:37:00
notebook Home 戻る