アナルの奥の町
真山義一郎

アナル、いわゆる肛門の奥には
秘密のスイッチがあって
それを押すと
あの町に行ける

真っ赤な部屋を抜けると
あの町、独特のモノクロの世界
娼婦の塔
高架を走る思い出
そして、涙に濡れた公園
すべてが白と黒

ノスタルジアに溢れているようだが
勘違いしてはいけない
僕らはそこで
未来の思い出を見てる

まだ、行ったことのない場所に
帰りたいと願い
まだ、出会ってもない男や女に
恋と失恋の苦さと甘さを同時に与えられる

ダ・ヴィンチやミケランジェロより
ラファエロが好きだ
と彼は呟いた
氷の美術館で働いていた彼女が
凍死する未来の話だ

その呟きには
マルボロの優しさがあり
僕らは二人
静かにコーヒーを飲む

少し気のふれた女が踊っている
その女は徐々に闇を増し
そのうちに完全に
影となり
電柱に消えた

ああ、
と彼は
苦しそうに息を吐いた

そう、
もう二度とその街から
逃れることはできないから
自由は渇望のまま
大きなため息になるしかない

老いるしかないのか
僕は問う
無論、返事はどこからも聞こえず
ただ、将来、住むであろう
あの炭鉱の長屋で
僕はジャック・ロンドンを
読んでいたらしい







自由詩 アナルの奥の町 Copyright 真山義一郎 2011-05-02 01:59:28縦
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