十一月ふたりのボートが、宝ヶ池をなぞってゆく日
AB(なかほど)

ほら
いつまでも進まないから
そろそろ代わろうか

静かにうなずいたのかどうか
オールを離した君は

君の目は膝に落とされ
僕の目は池のまん中に向けられ
あの浄化用のエアーポンプのとこまで
あの迫り出した二セアカシアの下まで
あの赤い眼鏡橋の下まで

泣き出しそうになる君の
ため息をつきそうになる僕の
肩のゆれと息づかいはいつまでも
もどかしく
いつまでもひとつにはなれず
ふたつにもなれず

やがて
幼い君と出会って
駈けて遊んだ小さな赤い眼鏡橋にさしかかると
かこん かこん って
枝で鳴らす音 かこん かこん って
君の音だよ
      僕の音だよ

それから

  風が吹いて
   
          葉が散って

    影が伸びて

            真っ赤な顔の幼い君は帰る


      暖かいお風呂の炊かれた家へ帰る


あんただって 
進めないじゃない

君は不思議そうな顔で
くしゃくしゃになった僕を見てる
くしゃくしゃになりながら君を見ている僕を見ている

なんてことだ

恋人としての君をなくすよりも
確かに愛した君をなくすよりも
泣きたいことがあるなんて

君は気付いていたのだろうか


あの紅い顔の夕陽から
この池の景色で
変わってないものなどなにひとつないけれど

なにひとつ変わらなかった思いが



  静かに

       散っている






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自由詩 十一月ふたりのボートが、宝ヶ池をなぞってゆく日 Copyright AB(なかほど) 2004-11-07 23:59:49
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