売名上等
白糸雅樹

 先日アップした、「がんばるな、ひとよ」への補足です。

 表現者が、パフォーマンスをする、文章を書く、絵を描く、そのような行為に、自己満足や自慰の要素がないことがあるだろうか。人を傷つける可能性なしに、表現、というものをすることができるのだろうか。

 少なくとも、私にはできない。

 人は、認められて、はじめて生きられる。「認められる」というのは、なにも「高く評価される」という意味ではない。ただ、「存在を認識される」という意味だ。存在を認識されない人間は、自分だけをたよりに存在を続けることができるだろうか。「私はここにいる。私はこういう存在だ」という主張なしに、他者の、「ああ、あんたはこういう存在だね」というレスポンスなしに、生き延びることは可能だろうか。

 少なくとも、私には無理だ。

 もしかしたら、誰にも存在を主張することなく、ただ、淡々と生きていられる人もいるかもしれない。だが、私は、赤子が泣くように、「私を認めてくれ」と叫ばずにはいられない。私はそういう人種だ。

 生き物が、人間も、植物や動物の命を断って、それをいただいて生きているように、表現者も、他者の存在や不幸をネタにして、踏みにじって生きている。それをエゴと呼びたければ呼ぶがよい。そのとおりだ。エゴだ。

 エゴ上等。売名上等。

 「がんばるな、ひとよ」の本文中にあるように、私は、最初は、このパフォーマンス・アクトの報告を、ネット上に書くつもりはなかった。パフォーマンス・アクトの会場には、深刻な被災者の身内がいる可能性はあっても、深刻な被災者自身がそれを目にする可能性はうすいと思われて、行ったパフォーマンスだった。もしも、福島や宮城での公演だったならば、きっと、また違ったものを演じたことと思う。(それは、私だけでなく、ホワイト・ダイスに参加した演者みながそうであろうと思う。)

 それが一転して、自己宣伝を書こうと思ったのは、パフォーマンス・アクトだけでは、会場にその時居合わせた、僅かな人にしか届かない、ということに気づかされたからだ。それはそれでよい。パフォーマンスはなまものなので、その時その場所にいるわずかな人間にしか届かないものだからだ。だが、私は届けたくなった。その時その場に居合わせることができなかった、被災者である友人に、メッセージを。被災者でない人々にも、メッセージを。

 さいわいなことに、そのメッセージは届いたようだ。よくもわるくも。

 同文を同時掲載したmixi日記には、好意的なコメントやイイネをいただいた。同時に、反論もいただいた。また、この現代詩フォーラムでは、激烈な反論をいただいた。(その激烈な反論は、現在、反論なさった方自身によって削除されているので、私はlogを取っていたのでそれを参照しつつこの文章を書いているが、読者のみなさまが、今、それを読むことはできない。)

 インターネットという、公の場、それも、被災者や被災者の身内が読んでしまう、このような場所で、「がんばるな、ひとよ」のような種の文章を公開したのは、残酷な仕打ちだったと思う。傷つけた相手には、傷つけてごめんなさい、と心から詫びたい。

 だが、後悔はできない。傷つけてしまうことがわかってなお、私は再び同じことを繰り返すことだろう。

 義捐金を募って、募金したからよいのではなく、届けたいのはメッセージだ。届けたいのは想像力だ。募金は、その手段である。募金をつのるという約束で見物人から預かったお金なので、約束どおり義捐金として募金したまでだ。

 お金は表現より役にたつ。たしかにそれは役に立つ。表現では、腹は満たせないし、表現では、うんこを拭けないし、表現では、命を救えない。お金はたしかに役に立つ。お金を使えば、食い物が送れる。トイレットペーパーが送れる。まだ生きている人体の上の瓦礫をどける機械が送れる。お金はフィジカルだ。

 我々のパフォーマンスも、それが直接的に義捐金として寄付されるという名目がなければ、あの金額を集めることは不可能だっただろう。観客は、我々のパフォーマンスに対して投じるのと同時に、それが義捐金として被災地に投げるロープになるという、フィジカルな効用を信じて、我々にあの金を預けてくれたのだ。

 だから、我々は約束どおり、義捐金箱に投ぜられた金は一円残らず寄付したし、パフォーマンスにかかった経費は演者それぞれ自分持ちだ。それが、手弁当というものだから。

 これは美談ではない。売名行為である。

 そして、この、「売名上等」という文章は、もちろん、自己弁護である。この文章によって、私は再び、多くの人を傷つけることだろう。

 それでも。

 自己弁護上等。
                              2011.4.10 白糸雅樹


散文(批評随筆小説等) 売名上等 Copyright 白糸雅樹 2011-04-10 01:23:14
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