どこかの誰かへ

言葉
声に出されることはなく
音として空気を震わせることもない
そんな言葉が積み重なって行く
届けたい誰かが
息をしているのはどこか
いくら探しても見当もつかない
空の下でくるくると踊るばかりだ
結局のところ
「どこか」は「どこか」でしかなく
「誰か」は「誰か」でしかなかった


+


言葉で頭が割れそうになる日が増えた
まるで風船のように膨らんだ自分の頭を
新しい言葉で殴りつける
それはそれでなかなか愉快だったが
そのまま割れてしまうといろいろと面倒だ
湧き出るイメージを
湧き出るままに書き連ね
長い長い手紙として
郵便配達人に渡した
あなたが読んでくれてもかまわない
そう言ってみたが
届けるのが私の仕事です
と言って背を向けると
すぐに見えなくなってしまった
きっと「どこか」へ行ってしまったのだろう


+


深夜に言葉が部屋の中で泳ぎ始めて
自由形よろしく激しく音をたてている
泳ぎ疲れるまで待つのもいいが
生憎と明日は朝が早い
眠れない時間を楽しむのにも
適切なタイミングが必要だ
誰かに電話をかけて
生まれてくる言葉を片っ端からぶちまけたい
そんな衝動に駆られ
携帯電話を手に取るが
どんな番号も押すことができない
どこか から どこか まで
この小さな機器は数えきれない人と繋がっているが
「誰か」とは繋がっていない


+


どこかの誰かから
一通の手紙が届いた
当たり前のように差出人の名は無い
封を開け 
ぎっしり書かれた文字に目を通そうとした瞬間
それは音もなく溶けはじめた
慌てて形を保とうとするけれど
すぐにそれはどろどろの何かに変わってしまった

しばらくその何かを見つめ
送り主に思いを馳せてみたが
言葉は
一つも浮かんでこなかった


+


もう見えなくなった郵便配達人の背中に向かって
大声で意味の無い言葉を叫ぶ

何一つ 届く事は無い
知っていたけれど
伝えようとすることを 続けていたかった



自由詩 どこかの誰かへ Copyright  2011-04-07 22:50:38
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