三週目の日記
縞田みやぎ

この土日は良い天気でした。
でも風が強かったなあ。
ヘドロが乾いた粉塵がひどいので,風が強いとしんどいけども,ぽかぽかしているのは,外活動が苦痛でないという点だけでもとても嬉しい。
朝晩はまだ氷が張るのですけども。
はやく春が来るといいな。

僕は空気のせいで目と呼吸器がいささかダメージを受けているものの,いくらか深く眠れるようになってきたので,体力は回復してきました。
初めの週のひりつくようなひもじさを体が覚えているので,つい食べ物を確保してしまうけれど。
避難所にうつすのが怖いので,うつる病気にならないようにと願いつつ。
汚水に入って長く洗えなかったせいで化膿していた足の傷の具合は,ずいぶんよくなりました。
水が出るって清潔にできるって素晴らしい!
まだ砂交じりの水道水なので煮沸して飲みます。
プロパンガスって強いね!

まちの中をいろいろな地方の特殊車両が走り回っているのも見慣れました。
すれ違う度に,感謝の気持ちで頭を下げます。
「たすけてくれてありがとう」「支援に感謝します」と通りに向けて大書きされた張り紙を,何度か見ました。
一方で治安はいまひとつよくなりません。
街灯がつかないし,警察も手が足りていませんし,みないらいらしているし。
日が沈むと,車以外はまちを歩けないのはしばらく続きそう。

まちの被害の少なかった地域はずいぶん状況がよくなりました。
まだ30分〜数時間くらいは待つようですがガソリンも入れられるようになったし,そもそも開いているスタンドが多くなりました。
被害の酷い地域で半壊しながらも強引に開けているスタンドを見て涙が出た。
フルタイム営業ではないものの,普通に店舗に入って買い物ができるようになってきました。
肉や牛乳まで買えた!全体に若干割高になってはいるけど我慢できます。
ツタヤとユニクロまで開いた!
日のあるうちがせいぜいの営業時間の都合でまだ入ってないけど,楽しみです。
店を開けている側ももれなく被災者なので,ありがたいと思いこそすれ,腹の立つことはあまりありません。
イオンが仕事が終わる時間まであいていてくれるようになったので,とりあえず食べ物・日用品・薬に困るということはなくなりそうです。
僕や,回復した地域で手がかからなくなった分だけでも,どうか足りないところに行きますように。

震災直後のことは,あまり書いて公表する気にはなれない。
記録はつけていますが。
その日自分が何を見てきたのか,あまり,言う気にはなれない。
近しい人にだけ,直接話してはいます。

一方。
テレビでもネットでも,もう「震災」に飽きがこられているのをひしひしと感じています。
何かしゃべるのにいちいち「またかよ」と言われそうで恐ろしい。
テレビでは海の中や住宅地ではないところを捜索している映像がとりあげられていますが,実際は,まだ住宅地の中でも捜索が行われています。
あまりに生々し過ぎて取り上げられないのでしょうね。
僕は被災とも言えないレベルの被害しか受けなかったけど,自宅から車で10分も行けばそんな風景となります。
全てがぐしゃぐしゃ。
根こそぎ。
何にもならない。
全滅とか壊滅とか,僕たちはずいぶん口にするようになりました。
そうとしか言い表すことができない。
全てがあの日から動きが止まったままなのに,たった3週間でみんな錆びてすすけている。
海水とヘドロって,風化させる力が凄いなあ。
主要道路は確かに車が往来できるようになりましたが,生活道路はまだまだけものみちみたいな感じで,カーナビがむなしい。
土地が低くなってしまったので,満潮時には主要道路でも冠水します。
そこを,自転車の人々が支援のトラックの脇をすり抜けて走っていく。
みんな気を張って気を張って生きています。

ボランティアも増えましたが,物見遊山の人も増えました。
軽装だしこぎれいだしそれ以前に浮ついているのですぐわかります。
観光に来た人を見ると,悲しい。
でも「飽き」がきている今,いっそ見に来いとも思います。
自分もテレビや写真を見ているけど,現実には遠く及びません。
見て打ちのめされるがいいよ,くらいの,乱暴なきもち。
ささくれているなあ。

花見自粛論に対して「どうせなら現地のお酒を飲めばいいよ」というの,僕は賛成します。
「そんなの何の足しにもならない」なんてことは,無いと断言できます。
今回のことで蔵元も会社も酷い被害を受けて,東日本のお酒は,今後作られるに厳しい状況が続くと思う。
でも再興したい,と言うのです。
それを生業として生きてきたのだから。
先が見えない。
できるとも限らない。
でもそれを支えるものがあるとすれば「必要とされているから」という気持ちだけでしょう。
今生き延びた人の生業に対して「あってもなくてもいい」「別にいらない」と言い放つのは,「あなたは生き延びなくてもいい」と言うのと同じです。
どうか,被災地のものを買ってください。
そして好きになってくれれば嬉しい。
みんな自慢の逸品です。
在庫がなくなれば終わりでしょう。
でも,好きになったものを,待っていてください。
必要なのだと。
生き延びてほしいのだと,思ってほしい。
無駄ということはありません。
足しにならないということもありません。
「こんな小さなこと」と思って何もやらないより,どんなに小さくても軽くても偽善でもネタでも何でもいい,行動してくれる方が嬉しいです。
「私,○○食べたことあるよ。おいしかった。また食べたい」でいいんです。
それだけでもいい。

全てのいのりは,届くようになっています。



(mixiに書いた同日日記より転載。
 後半部分(「花見自粛論〜」以降)は,現代詩フォーラムRT会議室で呟いた文章です。)


散文(批評随筆小説等) 三週目の日記 Copyright 縞田みやぎ 2011-04-03 23:09:48
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