傘をさすひと
恋月 ぴの

雨が降る

黒い雨が降る




夢の島

誰が名づけたのだろう

ぐぐったところで明確な由来などでてきやしないこの島で
静かに眠り続ける一艘の船

東西冷戦の最中
高度成長の軋みを飲み込み続けた
夢が夢だった頃の悲劇

明治通りを渡り陸上競技場の向かい側
緩斜面を引き摺るように下ると

第五福竜丸を納めた展示館が立ち現れる

現実を覆い隠そうとする
そんな意図さえ感じられる緑の深さと息苦しいほどの静けさ

「触れてはいけない」

何故にと立ち止まれば誰かが肩を突いて歩みを急かす




ぴかどんの雨だから
傘ささないと頭が禿げるぞ

幼さで囃すことばには悪気など無かった

乗組員23名全員が被爆して
ひとりの無線士が水爆実験の犠牲となった

あの都知事でなければ

はやぶさ丸と名を変え廃船となった一艘の船を保存などしたのだろうか

涙もろいヒューマニズムに付き纏う危うさと

それが正しかったと言えるのか

それで悲劇の連鎖を断つことができたのか




雨が降る

黒い雨が降る






自由詩 傘をさすひと Copyright 恋月 ぴの 2011-03-28 19:33:59
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