復讐に燃える妻はきっと、液晶保護シートを剥がしてしまうだろう
光井 新
3DSを買った。
早速、妻に自慢してみた。案の定「貸して、貸してぇ」と騒いで来る。単細胞過ぎる、貸したら最後どうなってしまうかまで分かってしまう。だから絶対に貸さない。
あれは、妻がDSiLLを買ってきた日の事だった。
私は既にDSLiteを持っていたので、ゲームをするのに特に不便は感じていなかった。小さな画面で慎ましくゲームをしていたのだ。
それなのにあの馬鹿と来たら「ほらぁ、すごぉい。おっきぃ」と、聞いてもいないのに大声で大画面ぶりをアピールしてくるではないか。
しょうがねぇなぁ「僕にも貸して!」と、借りてみれば、なるほど大画面も中々良いではないか。
いつの間にか、お絵描きソフトで猫の絵を描くのに夢中になっていた。
「もうおしまぁい。返してよぉ」
「分かった、分かった」
そして電源を切ると、黒くなった下画面には、私の描いた猫の絵が傷跡になってくっきりと残っていた。
妻は激怒した。
私は妻を愛している。今日買ったばかりの3DSなんかよりも、二十年連れ添った妻を愛しているに決まっている。3DSの下画面に猫の傷跡を描かれて、そんな事で愛する妻を怒りたくはないし、私の3DSに、DSiLLの復讐をする妻の醜い姿など見たくはないのだ。
散文(批評随筆小説等)
復讐に燃える妻はきっと、液晶保護シートを剥がしてしまうだろう
Copyright
光井 新
2011-03-25 03:52:17
縦