駅・江波
たりぽん(大理 奔)

広島で一番
遠いところが見えるのはどこかときくと
君はちょっと首をかしげながら
「江波山」だねって答える
去年だったかな
それっきり忘れてたけど
遠くが見たいと考えた途端に
君の怪訝な顔と一緒に思い出す

木の床のオイルの匂いが懐かしい
けれども現役の単車が
けたたましく停まるとそこが終着駅
山にむかって歩き出す

山頂には気象台があって
レストランがあって
瀬戸内海が見えて
自動車運搬船が見えて
ふもとには一番うまいとはなしに聞く
ラーメン屋もある

夕暮れだったせいか
思ったほど遠くは見えなかったけど
目を閉じると
ずっと遠くが見えた気がした
北風が寒くて
少し震えても抱く肩もないから
観音様の脇から小さな漁港にむかって
斜面に張り付く集落の
路地を小走りに駆け下りる
(犬がワンワン吠えている)
なにか海臭い生き物の匂いが
工事中の高速道路をさえぎっている

振り返って気象台を見上げる
どこまで遠くが見えるのかな
そんな独り言にはおかまいなく
横川行きのパンタグラフが
ビシッと激しくスパークすると
また君を思い出す
(もうすぐ山桜かな)

今日は川沿いを歩いて帰ろう




自由詩 駅・江波 Copyright たりぽん(大理 奔) 2011-03-21 23:47:29縦
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