嘆く背に桜前線の風が吹くように
たちばなまこと

嘆こう
いつか早朝のラジオで聴いたんだ
「前半しっかりと絶望すること。
 それが復活や飛躍への、ステップになるのです」
私たちの脳は生きるために
絶望と絶頂を繰り返す

友だちが教えてくれたんだ
「動悸がするのはね、本能で、
 いつでも逃げられる準備を、体がしているからなんだって。
 だから私、
 自分の体がちゃんと機能しているんだって思ったら、
 少し安心したよ」

大きな船が揺れて
人の波になって7時間
夜中まで歩いた
翌朝
太陽を浴びて
『ふるさと』を口ずさんだ

気弱な母親が気休めに
「ママがきみを守るからね」と言う
4歳の笑顔は
「ちがうよ!ぼくがママを守るんだよ」と言う
友だちからのメールが届く
「支援物資を運びにゆくよ」
「防災関係の仕事が増えたよ」
「ばあちゃんの病院にいるよ」
「札幌は日常を取り戻しているよ」

私が生まれた苫小牧の立派な港に
アメリカからTomodachiの船が来て
自衛隊の車両をたくさん積み込んでいったんだってね
港が夜通し赤く光って
ヘリコプターの音が鳴り止まなくて
父さんも母さんも妹も
「動悸が止まらなくて、眠れなかったよ」って
笑ってた
電話口

成田や羽田が混雑しているという映像が 少し早いゴールデンウイークのようにも見えた

風吹く川沿いの道
並木のつぼみがふくらんでいる
もうすぐ東京にも桜が咲く
次の休みは彼岸だから
墓参りにゆくよ
東京はこの子とその父親のふるさと
私は北のふるさとも君たちのふるさとも愛している
私はこの国を愛している

桜前線よ
北へ北へと春を届けて
ふるさとを愛する魂たちを
あたたかくくるんでください






自由詩 嘆く背に桜前線の風が吹くように Copyright たちばなまこと 2011-03-19 09:32:19
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