しなやかに朝を迎えたい
いとう


魚たちは
丘に打ち上げられ
濁った空気を吸っている
けものも
けだものも
身を潜めて眠っている
鳥たちはどこか遠く
姿を見せない

灯りのない街を
明るい部屋で夢想する
シャワーを浴びて
コンロの上の鍋が
暖まるのを待ちながら

たいへんなことが起こったときに
たいへんなことになったと騒ぐのは遅い
それはすでに
たいへんなことになっているのだから

当日の夜でも営業する居酒屋
翌日にはそこで宴会があり
輸送機関も回復
二日目の夜の井の頭線
人の津波も元通り
押し詰められて駅を降りると
裏道のラブホテルにカップルが入り
家に帰れば郵便受けに
大量のダイレクトメールが入っている

生きているとは
こういうことだ

「電気を大切にね ビリビリ!」と
とあるアニメキャラが笑顔で語り
「ヤシマ作戦」がツイッターを駆け巡る
花粉に咽びながら
そんなことも言えない状況
各所のブログは失言で炎上
被災地でもないのに
ではなく
被災地でないから

生きていることを確認するのに
これだけの死体だけでなく
あとどれだけの
馬鹿騒ぎが必要なのだろう
復元する力こそが
生きる力なのに
生きているものが
それを否定する

魚たちはもうすぐ死に絶える
けものも
けだものも
朝を迎え目を覚ます
鳥たちは羽を休めに家へ帰り
どんな場所にも
朝日がやってくる
死んだものはやがて腐るだろう
生きているものに刻印を残して
そして生きているものは
いや、生きているものだけが
馬鹿騒ぎをする権利を持つ
刻印を胸に
いつか自分たちが打ち上げられる
その朝まで



自由詩 しなやかに朝を迎えたい Copyright いとう 2011-03-14 01:41:09
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