Psychedelic Innocent
いとう


エックスって言っても今出回ってるニセモノじゃないのよ
まだ最初の頃の1錠数千円のヤツよ
知ってる?
オリジナルのエックスはベトナムで使われた自白剤なのよ
アレを他のとちょっと混ぜてアッチの効果を強くしたのよ
今流行ってんのは合法化するために
成分がずいぶん変わっちゃって
全然効きやしない
1箱数千円なんてバッカみたい
あんなので遊んでるジャップなんかバッカみたい

ねぇ
コレ
試してみる?

ポールダンサーのジェニファーは南部訛りがかなりきつくて
白人なのだけれど
ニューヨークあたりでずいぶん馬鹿にされて
こんなところまで流れてきたのは
自白剤を使わなくてもよくわかる

使わないの?
すっごいキクのに
フフフ。
私は使うね

備え付けの冷蔵庫の
どうしようもなく高いウィスキーで乾杯しながら
30分も経つと
「今かなりキテるわ」
なんて聞かなくても
潤んだ目を見ればすぐにわかって

ねぇ、そろそろ
しようよ
しないの?
してよ
しなさいよ

長身で細身のジェニファーの
腐ってもダンサーの
ふらつき加減もステップを踏んでいるようで
ベッドへ連れて行くのはそれほど
難しいことではないけれど

ねぇ、ジェニファー。
What?
ジョン・デンバーって知ってる?
Of course.
「カントリーロード」ね

大声で
でもきれいな声で歌い出すジェニファーの
クスリが効いているのか
彼女の自嘲気味な笑いを感じ取ってしまい
やるせなく
質問してしまう
「お父さんとお母さんは元気?」

ママは元気よ。ウェストバージニアにいるの(笑)
パパは知らない。あんな奴知らない。

オリジナルエックスはその務めを真面目に果たしていて
聞かれもしないのに
聞きたくもなかったのに
ジェニファーは昔話を紡ぎ始めて
彼女はおそらく
あと数分で泣き出すのだろう

あのね あいつはね…
私はまだ15だったのよ
ママがいない夜に…
だから私は…

訛りとクスリと涙で半分以上聞き取れなくなった彼女の言葉は
それでも
あるいはそれだからこそ
伝えるべきことを正確に伝えてきて
彼女の体と魂は
故郷に戻れずに
こんなホテルの一室でさまよっている

帰りたいのよ
でも
どこに帰ればいいの?

ジェニファー。
僕がしてあげられるのは
君の涙を拭いて
体を重ねることぐらい
優しい言葉を耳元で紡ぎながら
しがみつく君の爪の長さを
背中の痛みで受け取りながら
せめてクスリの効いているあいだだけでも
この部屋が君のHOMEになってくれればと






自由詩 Psychedelic Innocent Copyright いとう 2011-03-04 01:19:10
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