鶏の香り
たちばなまこと

野生の鶏が森に溶ける朝
立ちのぼる夜の残り香
白く踊る靄
女たちのはごろもの袖が
空に還るよう
斜めに抜ける鉄道の跡地に
芽吹く春を見守っている
私の肩に麦をふりかける人よ
瞳は黄金を映す
スライドする営みに魅入ることが
必然なら

ひとりなら
立ち続けられない揺れ
眠りの代償
石灰にまみれたグラウンド
荒れ地を切り開いた祖父の
満面の笑みが後光を背負い
惑う獣に慈悲
渇いた喉とはうらはらな
涙を流す

最中(さなか)
いくつもの余波がわき腹を通り過ぎてゆく
空につきぬける視界に鶏の絵のギャラリー
仏の表情(かお)を浮かべる蛙よ
甘い香りを引き連れた緑風よ
無垢な預言者よ
あなたたちの声をもらえるのなら私が
雲を渡る春になる







自由詩 鶏の香り Copyright たちばなまこと 2011-02-25 13:09:53
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