やわらかなくちづけ
高梁サトル


夕暮れの戸口を悪魔が叩いたら
手の甲を扉の隙間から差し出して
蒼褪めた唇にくちづけを乞いたい
それは夜風に晒され芯から冷え切った
明日のいとしい人であるかもしれないから

ランプを翳し
揺らぐ灯りのもとにあらわれた眼や鼻や口が
同じように模られた意味を理解したあとに
二人のけして冒すことのできない王国の話をしたい

暖炉の前で
あかい熱がくすぶる薪を眺めながら
つめたい肌の理由は聞かずに
あなたの中に住むわたしという住人を探したい
何度言葉を違えても
果てしなく続く印のない国境で
連鎖のゆめの話をしたい

やがて暖炉の炎が落ちて
窓の外に光は戻らず
世界のすべてがまぼろしに終わっても

暗闇の中
手探りでやわらかな頬に触れて
そして

再会のやさしい約束をしたい


自由詩 やわらかなくちづけ Copyright 高梁サトル 2011-02-24 02:17:19
notebook Home 戻る  過去 未来