何もせず僕は今日に生きる
吉岡孝次

何もせず僕は今日に生きる
黒い机に載ったベージュのコンピューターや
襟の擦り切れかかったワイシャツに拘泥することなく
「今日」をべた塗りした今日に生きる
かつて愛した誰かの事や
「愛したと思った誰か」の事をノートに書きつけ
とりあえず、と言える今日に生きる
幾つかの詩的テクニックは概念であり、
キャリアこそが未熟の始まりなんだ、と全身で感知する
眠い目を洗う寒さに対し
断固として
掛け声を浴びせる今日に生きる
(或いはそう信じ、今日に生きるふりをする)
船舶への愛をひた隠しに隠し
メトロノームが何の役に立つのかといきりたって見せながら
恋人との冷え切った今日に生きる
唐突に反復する今日に、生きる
(ああ
 もう一人とも 今日に生きてゆく・・・)
二月の受験日に向けてエアチェックしてた
隣県の放送局から流れてきては
途切れてしまった大好きだったロックンロール
(あれは、今日を生きてたのかい?)
「瞑目」を単語として記憶した
幾つかの小説を仕上げ
とんでもない料理をひとに試食させながら
馬鹿だね
何もせず僕は今日に生きる
まあそのうちに値打ちが出てくるさ
でも僕は生きるのを待ったりしない


自由詩 何もせず僕は今日に生きる Copyright 吉岡孝次 2011-01-29 17:47:45
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