わたしは水ではないので
あぐり




肥大化する奥歯をなだめすかしていると
父と母を三人称にしていた


名付けられないものが多すぎるので
みんな言葉を捨てる
胎内の空洞にはまるものはどうしてか
その必然性がこわい


(わたしは水ではないので、何かをえらぶことでしか いきていけない)


翼が生えたとつぶやいた人とは
一度も顔をふれあわさなかった
唇から顔をなであげる夜の、均質な冷たさは
たちのぼるように青いのです
それに触れたならとても、
とても、熱くて 
はじめて、わらうしかないと、わらいました



水玉をまきちらすことも
そうはしないことも
どちらも「ふつう」だと決めつけてあげようか


(ただしいことはただしい方法でやるべきなのです)


誰かが浅瀬で重油をまいて
それをヒーローにできるわたしたちは
どうしても、飢えているのでしょう
ふさいでくれる毛布なら
口にふくむことも出来ずにあいせるのに
ひとりでいることを忘れた日は
流れるぜんぶをなくしているのでした


(あなたを「お」をつけて乞うてもよいでしょうか)


飢えている奥歯がふくらんでくるので
どうしようもなくわらって
はじめて名前のないものを、憎むことにしました


わたしは水ではないので
なにかをえらぶことでしか、いきていけないのです









自由詩 わたしは水ではないので Copyright あぐり 2011-01-08 22:38:59縦
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