もう一つの「KAGEROU」
啓発者


芸能人としての自分に限界を感じたある青年。
そこに黒尽くめの服を着た編集者を名乗る男から声がかかる。

本を出したくはないか?
作家として人生をやり直してみないか?

−−でも僕には文才がありません。

才能とは持って生まれるものでも努力で育まれるものでもない。
才能はね、作れるんだよ。
虚構を作り出す出版の世界では、才能すら人の手で作り出せるんだ。

−−どうやって? 僕に作品など書けるわけがない。
. . 俳優は書かれたものを覚えればいいけど、自分で書くなんてとても。

本当に君が作品を書く必要はない。
近年、受賞者が出ていない文学賞がある。そこに名前だけ貸してくれ。
受賞発表までは君の本名を。受賞してからは君の芸名を。

謎の契約を結んだ2人のシナリオはトントン拍子に進んでいく。
前評判だけで飛ぶように売れる本。
出版社には金が、
青年にはベストセラー作家の名声が授けられた。

しかしこの企みはここからが本番だったのだ。
偽りの「才能」はやがて出来レースの噂を呼び 駄作の烙印を押され、
一時のKAGEROUのような名声に酔っていた青年は一気に地に落とされる。

彼の手には何も残らなかった。
俳優としての人生も。
作家としての地位も。
ただ汚名と後悔だけが心を蝕み続ける。

あたりに不気味な高笑いが響く。
一体、黒尽くめの男は本当の編集者だったのか、それとも悪魔だったのか。

確かなことは唯一つ。
彼が貶めるのに成功したもの、人間世界の美しい創造物の一つ、

その名は「文学」・・・。


自由詩 もう一つの「KAGEROU」 Copyright 啓発者 2011-01-04 20:12:00
notebook Home 戻る