ゴッホの空咳
salco

夢に根ざした情熱は
けれどガラスのように脆い炎だ
その熱情は外に向かって放たれ
壁の前に砕け散る
それでも消えずに突進し続ける
ドン・キホーテの姿は哀しい
ゴッホの空咳 コッホ、パスツール

幼児より尚傷つき易いエゴイストは
傍迷惑な理想の押し売りを決して自分の鏡に見ない、
涙をためた盲の目をしている
彼ほど人を愛する者はなく
彼ほど愛されぬ者もない
独り善がりでしかない激しい愛他精神を抱えて出て行き
あちこち街を彷徨い歩き
失望を曳きずり夜道を帰る
糞の役にも立たない熱情の火力が人の顔をしかめさせる
太陽を直視するようには
人間の目は出来ていない事に独り気づかない
その渇望はうるさく纏わりつく乞食の哀願のように
人を辟易させるという事も
彼は拒絶だけを解答に見、
結論を導き出す数式の方には目もくれない

サディストでないエゴイストは結局自分ばかり傷んで
その理由も解らないので
耳を切り落としたりするわけだ
芥川龍之介の言う
「超阿呆」とはこんな人を指すのだろう


自由詩 ゴッホの空咳 Copyright salco 2010-12-26 21:34:34
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