サンタ
itukamitaniji

サンタ

生まれた時からそれが使命だった
多分死ぬ寸前まで
誰かを笑顔にできるなら
ずっとそうやって生きていくんだよ




相棒のトナカイが 風邪をひいてしまって
どうにも困りましたが 仕事は仕事なので
今年はひとりで 町に降りて来たわけです
申し遅れました この町担当のサンタです

やだなぁもう そう言えば今日はクリスマスイブ
こんな浮かれたおっさんなんて 相手にしてられない

予定なんてないから 家で一人きりDVDでも見ようかと
早足で家路を急いでるんで どっかに消えて




地図を落としてしまって 困っているんです
最後のプレゼントを 送り届ける途中なのです
やっぱりひとりでは どうもうまくいかないのです
この写真の家が 何処なのか知りませんか?

本格的にイカれてる? いや待てよそれにしても
白髭に赤い衣装に 白い大きな荷物まで揃ってる

イブなのに 雰囲気無いなとサンタ
指をぱちんと鳴らしたなら不思議 雪が降り始めた




付き合う私も私だけど その家には見覚えがあった
帰り道に通る ツリーの綺麗な家だったと思う
辿り着いて 伝票をしっかり確認した後に
「よし。」と一言 柵を乗り越えるサンタ

何処からどう見ても 泥棒にしか見えない
屋根によじ登って 2階の部屋に窓から入ってゆく

響く大きな物音と叫び声 部屋に明かりが灯った後
逃げてくるサンタと それを追うレトリバー




少しでも面白い話だと 期待したのが間違いだった
何故か私も逃げる羽目に とんだメリークリスマスだ
逃げながらサンタはと言うと 隣で何故か笑ってて
「渡してやりました!」と 何度も繰り返すだけ

あわてんぼうの何とかっていう 冬の歌がありますけど
あの歌のモデルは 実は私なのですよとサンタ

馬鹿なんじゃないのって ついに私も笑った
星の綺麗な寒い空に 大量に吐き出す白い息ふたつ




何はともあれ 最後まで無事に配れました
あなたは年齢制限からは 外れていますけど特別です
何でも言ってください 私が出来るせめてのこと
分かってくれたでしょ? この町担当のサンタですから

恥ずかしいから 言葉になんて出来ない
胸の中で唱えた 私の欲しいものは…

恥ずかしいことはありません 欲しがる権利は
誰にだってあるのです 私には全てお見通しです




お安い御用ですとサンタ 指をぱちんと鳴らしたなら
私のポケットで携帯電話 光って震え出した
受話器の向こう側の 陽気な友達の笑い声と
お前も来いよと一言 そう言えば今日はクリスマスイブ

恥ずかしいから 言葉になんて出来なかった
胸の中で唱えた 私の欲しいものは「約束」

楽しいクリスマスを 私は帰りますとサンタ
指をぱちんと鳴らしたなら不思議 雪になって消えた



生まれた時からそれが使命だった
多分死ぬ寸前まで
誰かを笑顔にできるなら
ずっとそうやって生きていくんだよ


自由詩 サンタ Copyright itukamitaniji 2010-12-25 08:57:40
notebook Home 戻る  過去 未来