浪漫模様
光井 新

 皆様は黒柿という物を御存知でしょうか。近頃では、果肉の黒い柿の実なんかが、食用として出回ったりもしております。それを黒柿と呼んだりもする様ですが、これから御話しさせて頂く黒柿というのは、黒い柿の実の事ではなく、木材の事で御座います。一体どんな木材なのかと申しますと、黒、柿、という位ですから、柿の木なのですが、普通の柿の木には無い黒い杢の入った物を、特別に、黒柿というので御座います。緑掛かった羽を大きく広げた孔雀を思わせる孔雀杢、温かみを孕んだ有機的な縞模様の縞杢、宇宙の様な黒の広がりを見せる真黒、などなど、その柄も実に様々で、見る者に対して、命の持つ個性を強烈に訴え掛けてくる様な美しさが、充ちて溢れて広がった杢で御座います。
 なんでも、柿の木を一万本切って、一本黒柿が出るか出ないか、そんな代物なのだそうです。そもそも柿の木自体、成長が遅く、木材として使える太さになるまでには、かなりの年月が必要になる物でして、黒柿ではなくても、供給できる数が少なく、それはそれでそれなりに、高級木材な様で御座います。加えて、柿の木というのは、乾燥させて加工をするのも難しいらしく、床柱や茶道具それに様々な家具など、多くの需要があるにも関わらず、柿の木の製品というのは、あまり作られておりません。高級木材の中の高級木材、それが黒柿で御座います。
 この黒柿、遺伝子組み替え大豆がスーパーマーケットに並び、人ゲノムさえ解析できてしまう現代において、未だ多くの謎に包まれた神秘の木材でも御座います。恐らくは柿の渋が関係しているのだろうという事、地中の金属が関係しているのだろうという事までで、どの様にしてあの黒い杢が生まれるのか、詳しい事はまだまだ解明されておりません。必ず黒い杢の出る都合の良い品種などは勿論無く、気候や地質などの条件により、比較的黒い杢の出やすい地域というのもある様ですが、柿の木を切ってみるまで判らないので御座います。そんな浪漫模様こそが、黒柿の魅力なので御座いましょう。


散文(批評随筆小説等) 浪漫模様 Copyright 光井 新 2010-12-13 07:29:16
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