さるすべりの影
はるな


一年まえとおなじように、さるすべりの木がアパートのしろい壁に影を落とす。葉のおちた、やせた、冬のさるすべり。
はれて、あたたかい夕方は清潔なにおいがする。角のスーパーマーケットのほうから、圧倒的なただしさが立ち込める。揺るぎない奇跡とでも言うべき「生活」。

いろいろなことを言われる。いろいろなひとから。賞賛と罵倒、そのどちらでもない言葉。
でもそれはただの言葉であって、わたしではない。言葉はわたしそのものではない。
欲しいものは手に入れてきたし、これからだってそうするつもりだ。欲しい男の一人も手にいれられない人生は、わたしのものじゃない。
そう思うのに、わたしは圧倒的な清潔さのまえで立ちすくんでしまう。憧れているみたいに。あるいは何かを損なってしまったように。



散文(批評随筆小説等) さるすべりの影 Copyright はるな 2010-12-09 16:07:06
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