並んで帰る道
西日 茜

淀んだ排水溝の蓋を閉めるように
職員室のドアを閉めたら
薄暗い廊下をすり抜けて
警備員のおじさんとさよならをする

すとんと腰をおろして
バッシュの紐を結んでいる
少し前に出た君が
無造作に落とした前髪の隙間から
空虚な瞳で物語る不幸を
少し感じながら私は微笑み
先の尖がった
教師には不釣り合いなヒールを
ポンと落として
気だるさをクロスする

子どもらの喧騒が鎮まった午後の校舎
放送室から
高学年児童と中学生のコラボレーション
モラトリアムなエレクトリック演奏と
少し外れた声が隙間から流れ
暗い廊下をさ迷っていた

話すことは今日一日の出来事
「何もいいことはなかったよ」
この瞬間
君と帰る道のりが
虚無のはじまりだと気付く

無から生じてしまった
先の見えない
迷走
求めるものと
逃げゆくものが
交差しかけ
まさぐり
絶望の淵でこころを見つめ合っている

並んで帰る道は
けっしてクロスしない平行線
さまようアリス
大切なひとことが言えない
上手にさよならもできない

ルミノスの薄透明な日暮れに
気がつくとひとり
群青の空が落ちてくる


自由詩 並んで帰る道 Copyright 西日 茜 2010-12-04 16:44:01
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