音楽室の幽霊
itukamitaniji

音楽室の幽霊

僕は臆病な幽霊さ 人間をおどかすのが仕事
今度の配属先は とある学校の音楽室
夜の学校は暗くて怖い だけどひとつ良かったのは
大好きな楽器が 弾き放題だってこと

ある雨の日の夕暮れ 音楽室に訪れた少女
コンクールが近いので ひとりで吹奏楽の練習
何度も何度も同じ曲 繰り返し繰り返し吹いていた
失敗してもくじけない姿に 幽霊はずっと見とれてた

きっと誰も見てない努力は
神様が救ってくれる
そうじゃないと世界は
あまりに悲しすぎるでしょ?

気付けば幽霊泣いていた その涙は頬を伝って
ピアノの鍵盤叩いたよ 部屋に響いたドレミの音
少女は驚き戸惑った 誰も居ないはずなのにと
これはもしかして噂の 音楽室の幽霊?



僕は臆病な幽霊さ 人間をおどかすのが仕事
意を決した幽霊 少女と同じ曲をピアノで叩くよ
何度も何度も聴いたから すっかり覚えてしまったよ
その音色があまりに綺麗だったので 少女は聞き惚れていた

その日から少女は毎日 音楽室に通ったよ
幽霊すっかり先生気取り さぁレッスンをはじめよう
昨日の続きの小節 じゃあピアノに合わせて
ほら練習の介があったよ うまく吹けるようになったよ



僕は臆病な幽霊 人間をおどかすのが仕事
君と仲良くなっちゃった僕は 幽霊失格なんだってさ
幽霊なのに幽霊をクビなんて おかしな話だよね
だからもう行かなくちゃ だから今日でお別れさ

僕が教えたかったのは
譜面や楽器の吹き方じゃくて
楽しむことそれが一番
君自身の音色は

未完成で それでいて無邪気で
君らしさが 溢れてたんだ
何かに縛られて やらされる必要はないのさ
聴かせてよ いつだって君らしい音色を


自由詩 音楽室の幽霊 Copyright itukamitaniji 2010-11-24 00:51:53
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