ぬいぐるみ
蒼木りん

ぬいぐるみとさよならができないので
ぼろぼろで汚れた身体を
アクロンで洗って
柔軟剤に浸して
天日で干して乾かして
猫に喰いちぎられた足や頭からビーズが
ポロポロ落ちるのを拾って中に押し込んで
綿を詰めて縫い合わせた
下手な縫い目が見えないように
撫でて毛並みをよくして
形のくずれていた耳がもとにもどり
恐怖に慄いていた目が
安堵の微笑みになった
気がした
どうしても
見えてしまうのだ
捨ててしまった後の光景が
ごみ収集車に乗っけられて
集積所に放り込まれて
いずれ焼却炉で焼かれてしまう
べつに
そんなわたしを
笑ってくれてもいい
でも
わたしが笑ったのは
この猫のぬいぐるみは
拾い猫のトラとの
縄張り争いで負けたのだと
息子がおしえてくれたことだ





自由詩 ぬいぐるみ Copyright 蒼木りん 2010-11-15 22:49:09
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