どんぐり山の子狸
西日 茜

早朝の河原で
かすかに首を動かし
じっと横たえる獣がおりました
わたしはそっと抱き上げ
セーターにくるみましたが
手袋を噛んで
小さく鳴きました

カラスにやられたのか
鼻先に赤いものが滲んで痛々しい
こちらの目を見ておびえておりました

獣医さんに渡し
近くの自然動物園へと向かった子は
一晩たっても元気にならず
安楽死の選択しかありませんでした

「どんぐり山」
と子ども達が呼ぶ山で
子狸は暮らしていました
みんなは
「良かったね、カラスにやられて
しまう前に人間に見つかって」
と言いました

隠れ住む生き物が
人間にその姿を見られたときは
すでに死が近いのでしょう

おかあさんと少し離れた場所で
息を引き取った子
わたしは獣医さんにお願いして
山の土に帰してもらいました

校庭を見下ろす里山で
枯れ葉やどんぐりや小枝をおもちゃにして
遊んでいた子狸よ
山の子よ

母の傍でやすらかにお眠りなさい





自由詩 どんぐり山の子狸 Copyright 西日 茜 2010-11-14 09:10:50
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