安らぐひと
恋月 ぴの

うつろな視界の外側で小鳥の囀る気配
ひとしきり肩の上を行ったり来たり
動こうとせぬ私の様子をいぶかしく感じたのか
右の頬を軽く啄み樹海の奥へと飛び去った

時の感覚を失う
それがこんなにも安らぐとは想像だにしなかった

色鮮やかな木の葉が音もなく舞い散るように
昼とも夜とも知れぬ只中に漂い
時折私の近くを通り過ぎる獣たちの目に映るのは

あるがままに総てを委ねた私の姿

いつしか夜になっているようだった
晩秋の夜
穢れない満月の夜

日に日に失っていく意識で辛うじて捕らえた一羽の梟
朽ち果て行く姿に弔意でも表しているつもりなのか
向かい側の梢に止まり夜通し私を見つめていた

何も思い出せない
思い出さない

いずれ今年最初の雪が熊笹の繁る大地を白く覆い
感謝の念を書き記した手帳は読まれるあてもないままに
ゆっくりと
そして安らかと朽ちる




自由詩 安らぐひと Copyright 恋月 ぴの 2010-11-08 21:06:04縦
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