諧謔集
豊島ケイトウ


 〇悲しい、天竺まで赴いて買い求めた冷蔵庫が以前使っていたものとまったく同じだったときみたいに悲しい。

 〇頭の上にある見えない天蓋が少しずつ落ちてきていることについて知らぬふりをつづけるのはもうやめようと私はつい先だって天蓋によって頭を打ち砕かれた近い将来の私に叱られたばかりである。

 〇否応なしにすくすく伸びつづける私の陰毛よ、どうしてそこまで失われた十字架を目指そうとするのだ?

 〇眼前に鳥でいることにいささか辟易しながら今日も浅瀬に立つ白鷺がいるけれど私はすこぶる眠たい、私はすこぶる乏しい。

 〇私がかつて長期入院を余儀なくされた病院には仲のよい赤鬼と青鬼がいてとりわけ青鬼は私に気があったのかいつも近くの山から採ってきた松茸をこっそり焼いて食べさせてくれたが他方赤鬼は誰かから私が隠れて松茸を食べていることを聞きつけ大きな棍棒で私をめためたにしそのめためたを理不尽に思った青鬼が赤鬼をめためたにしそのめためたを理不尽に思った赤鬼が青鬼をめためたにしそうしてお互いにめためたにし合いながら息絶えたのは周知の事実というか有名な話であるがしかしその病院の近くの山でたいそう立派な松茸が採れることはあまり知られていないため私にはとても好都合であり毎年秋になると家族総出で松茸狩りを楽しませてもらっているあんばいである。


自由詩 諧謔集 Copyright 豊島ケイトウ 2010-11-06 09:18:24縦
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