蠍座の町
真山義一郎

峡谷を越えると
静かな瓦屋根の風景だった
懐かしい味噌汁の匂いがした
ああ、そうか
もう冬になるんだ
木が無口だ
迷路のような路地裏を抜けると
君の家がある
赤い屋根の洋館で
君はピアノでサティを
くりかえし
くりかえし
弾いていた

君は目の前にいるのに
僕の目の前には
分厚い透明なガラス
見えないほどに透明なのに
声も何も届かないんだ
僕は叫んだ
何度も
何度も

夕暮れは嫌い
君が囁くのを
夢の中で聞いた

美しく呆けた老婆が
白いパラソルを広げ踊っている
静かな町だ
子猫が
何匹も
何匹も
やってきては
僕にすり寄った

ああ、そうか
もう冬になるんだ

君の誕生日まで
もう少しだね
ガラス越しに
君に囁いた

君は
ずっと
サティを弾いている


自由詩 蠍座の町 Copyright 真山義一郎 2010-10-17 01:36:32縦
notebook Home 戻る  過去 未来