てらてら笑う
豊島ケイトウ

(てらてら笑うニンゲンはたいがい……)

ずっとむかし叔父のいった
そのつづきを思い出そうとする

(てらてら笑うニンゲンは)

 (たいがい……)

  (たいがい……)

   (たいがい……)

てらてら、だなんて
まるでジョロヤのがらり戸から流れる
紫がかった温風のようじゃないか

すると となりのおんなが指をさす
二、三日前に汀を歩いていた、
左手にカザグルマを持っていた、婀娜だった

そのおんなが私を指さして、
身重のようにぷっくりふくらんだまぶたを
朱鷺色まで昂揚させて、
半分ゆるんだおとがいに
笑い
をにじませて、

――あなた、どうしててらてらしているの
  今てらてらするところかしら
  ああ、
  こんなにもてらてら笑うヒトはじめて!

おかしなことをいうものだ
せっかく拾ってやったというのに
なんだ、この仕打ちは

てらてら笑っているのは
そっちの方じゃないか
冗談はよしてくれ

――もうほんとお願い、
  そのてらてらを引っ込めてちょうだい
  せなのあたりに隠してちょうだい
  シッ シッ シッ!
  母がよくいってたわ、
  てらてら笑うヒトってたいがい

   (たいがい……)

  (たいがい……)

 (たいがい……)

(てらてら笑うニンゲンは)

だいたい今日の暑さといったらきりがない
とことわのようにきりがない
団扇はどこだ団扇をくれ団扇がほしい
行李の中か抽斗かそれともおいおまえ、
どうしてそんなにまぶたを腫らしているのだ

――さては団扇を入れているのだな
  てらてら笑ってないで何とかいえ
  まぶたに入れたって仕様がないだろう?

てらてら笑うニンゲンは、
これだから困る


自由詩 てらてら笑う Copyright 豊島ケイトウ 2010-09-12 10:00:04
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