夏が挽く歌
橘あまね

いっぴきの蝉が
務めを終えたように 
仰向けに落ちて
空をひっかいている
親しんだ木々の幹に
戻る力はもう無い

おまえの瞳が
磨きたての宝玉のように
くろぐろと光をたたえるのが
泣いているせいだからと
決めつけるのは傲慢かしら

ぼくたちだって みんな
歌うための歯車にすぎない
かなしい歌を忘れるためにかなしい歌をうたって
誰に聞かせているのかもわからないまま
やがてどこかで うごくのを止めるときまで
歌いつづける
ちっぽけな つくりものでしかない
限りあることを 限りあると知らないままに

おまえの六本の足はやがて折りたたまれてしまう
歯車をひとつなくして
夏のきしむ音がきこえる


自由詩 夏が挽く歌 Copyright 橘あまね 2010-09-02 20:20:49
notebook Home 戻る