コスモス堤防
蒼木りん


あと何年したら自由になれるだろう
この部屋の三角の天井に
ひらかない天窓
こんなはずじゃなかった
あたしが欲しかったのは
青い天にとどく窓

猫の息子が鳴くから
もうすぐ部屋に行ってあげないと
大人になったから
もう自由にしてやろう
どこへでもお行き
思うように土のうえを歩いて
お腹が減ったら帰ってくるかい

農家も
お洒落でかっこいい生き方に見えてくる
現代では
宅地用に切り裂かれた土手が痛くて
目をそむけてしまう
かつて
金色のすすき野原に
赤トンボの雨が降っていたのに

今がすべてではないんだよ
だけど今が哀しいんだ
戦うしかないんだ
変わらないものと
ひたすら
絶望
逃げ道
オセロゲーム
こんなことにまけるもんか

愛しているって
こいつもいつか
おじいちゃんになって
足腰が立たなくなって
お漏らししてオムツしたりして
介護してあげなくちゃならなくなるかもしれないんだよ
おまえよりも先に
年取るんだよ犬は

すこし高いところに立って
将来とか未来とか
眺めたらちょっと
胸が痛くて
身体をそらせて伸びをする
それから
構える

犬をひいて猫を抱いて
前を歩く
大小の人陰の後ろから歩いていく
だから色々見えるのか
だから損もするし得もあるのか
前を歩けないのは
足が遅いだけじゃなくて
振り向くのがこわいから

食べ物屋に
わざと遠い所に駐車して
コスモス堤防を
おまえと歩きたかった
鉄橋を渡る電車は
アルミ缶みたい
おまえみたい
だけどその向こうの山を
きれいだと思って見てほしかった


自由詩 コスモス堤防 Copyright 蒼木りん 2010-08-27 11:38:26
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