風紋/夏
萩野なつみ

この街はひとつの詩篇しずやかに置手紙のような息を吐くひと


光さす野をひたすらにゆくがいい、君、セルリアンブルーの尾びれ


湯豆腐を崩さぬようにくずしつつ星の底までゆきたいと言う


あけがたのポストは青くうまれくる前にあいしたひとからのメモ


テールライトともして環七走りゆくきみは死んでも星にならない


誘蛾灯に焦がされてゆく幾百の羽、羽、羽、(あれはだれのてのひら)


エル・ドラードと名付けた朝の隙間からこぼれるばかりの虹に切手を


星は幾ついのりをいだくセルリアンブルーの果てにしずむ曳光


発光するさよならだけに水やりをして生きてゆく公転軌道


まっさらな屑星となり名前さえわからぬままにすれ違いたい


改行を繰り返しつつきみの吐く泡)泡)泡)の中のトウキョウ


死にたいと言いつつわらうわたしたちここ墨田区は海より低い


なにかへの答えのようにかたむいてわらう向日葵 夏はもう逝く


貝は貝と麒麟は麒麟とあいしあうこの世のすみのわたしの乳房


生きること生きてゆくこと ひとすじの洗いざらしのような孤独を


名付ければ壊れるもののあると知るいまだからこそきみに花束






短歌 風紋/夏 Copyright 萩野なつみ 2010-08-23 14:36:35縦
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