おねむのまほう
salco

ねこを見てると眠くなる
ねむねむねむねむおねむのまほう
ふわふわの
お腹のお毛毛をなめている
おねむの国に行く前の
おねむの前の身だしなみ

 あたしはそんな風だって、頭をひと振りするだけで
 にくたらしいねずみちゃんが遠くを掠めて通るだけで
 たちまちまちまち目がさめるんだわ

と言いながら
たれたれたれたれお目目が垂れて
おねむのまほうに浸ってる
お日様も
たれたれたれたれ垂れ雲の
真綿に緋色の頭をもたれ
夏を怠けて薄い静かな昼下がり
朝顔とアスファルトに風がさらさら渡ってく


ねこの体は水でできていて
小さな小さな紅いをさかなが
お腹の中に1ぴき棲んでおり、
海を夢みて泳いでいるが
緑のお目目はそれを知らない
ゆっくりゆっくり瞑ってしまう
(青や瑠璃のをさかなや紫のをさかな、
黄色いをさかなのいるねこもある)
それでも時々自分の中のをさかなを感じると
しっぽがひとりでに動くのだ


うちの小さな三毛猫は、深窓のお嬢を
14年
いや、お嬢というにはひ弱過ぎ
生れも育ちもバッチンガムのお姫様を
14年
都合千四百五十六年やっている

 あたしはそんな風だって、頭をひと振りするだけで
 お耳の遠くをさんかくの蛾が飛ぶだけで
 ライオンちゃんに早変わりよ
 世界一精悍で、残忍無比の王様の、
 むごたらしい牙の祭典をするんだわ

と言いたげに
今やぐっすり眠っているので
ねこを見てると眠くなる
ねこの小さな頭の中の
誰も知らない夢の中で
私も溶けてしまうのだ
ねむねむねむねむおねむのまほう


自由詩 おねむのまほう Copyright salco 2010-08-22 08:39:55
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