この思いをどこに持って行けばいいんだろう 1
千月 話子

      反芻する夕食


週末の台所にジャガイモとニンジンが転がっている
牛肉は 今日には使ってしまわなければ
幻の牛の角に突かれる勢いだ
新作の辛口カレールーは
未だ使用された形跡は無く
 推理する必要もない


多分 いや きっと
2杯はお代わりするだろう と
3時のおやつ 1粒1500円のトリュフチョコを
横目で見ながら
甘い汁が大型犬の如く垂れてこないように
 暗所に 仕舞い込む


インド旅行でカレー攻めにあって
腹を壊した友人に同情しながら
我が家のカレーが一番だ!とニンマリ笑う
 自分が 妙に可愛い


そして 愛しい 愛しい 愛しいカレーよ


口の中で あらゆる香辛料が美しく混ざり合い
幻覚でフラフラになる前に
風呂でも入って
 取り敢えず 落ち着こう


 整えた息を 深く吸い込む
未だ あの悩ましい香りが部屋中に充満していない
そこに 漂うのは
香ばしい醤油と砂糖の甘辛い匂いだけ
 さっきは見えなかったじゃないか 糸こんにゃくよ!
ポリエチレンのビニールの中で
蠢く姿は透明だったんだ・・・


私は目に一杯涙を溜め
それでも2杯 白飯をお代わりする
せめて我が家の肉じゃがの肉が
豚肉使用であったなら と
袖口でグイと目を擦りながら
ああ、、、
明日には少し高めの専門店の
レトルトカレーを買ってきて
もしも地球に巨大隕石が落ちて来ようとも
その前に 旨いカレーを堪能してやるぞ と
堅く 堅く 堅く

心に誓う勢いだったんだ


自由詩 この思いをどこに持って行けばいいんだろう 1 Copyright 千月 話子 2004-10-17 00:51:09
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